記憶
「バッツってほんとチョコボばっか召喚するよなぁ」
「ん?そっか?」
イミテーションを倒したあとにジタンがつぶやいた。
さきほどから言葉をかけられた本人は黄色い鳥に夢中である。

「いや、でもまだ3回目だし・・・・」
多くなくね?

「3回も、の間違いだと思うけど。なぁスコール?」
「・・・・・・・あぁ」
声をかけられたスコール自身はどうも心ここにあらず、らしい
バッツはそれを見逃さなかった。



「スコール」
「なんだ」

外で見張りをしていた彼に声をかけた。
ジタンが起きないようにそっと隣に座った。

当の本人は何故起きてきたんだ、という視線を投げかけている

「あのさ」
外はひんやりとしていた。
多分、今聞かなくてはいけないんだ
風もそんなことを言ってる気がする


「何でそんなに召喚獣を使わないんだ?今思ったら魔法もあまり使わないよな?何か嫌な思い出でもあるの?それとプライドとかそういう問題?」
一気にしゃべりすぎたかも?
隣の彼は眉間に皺を寄せ、ただただ地面を見つめていた

こういうときは辛抱強く待つのが正解か
でも持久戦は苦手なもんで

「あ、ごめん。言いたくないならいいや」
悪いことしたな、と独り言のようにつぶやいて立ち上がろうとしたら腕をつかまれた
出来れば先に行動じゃなく、一言くらい言ってもらいたいとかそんな我侭を言う暇もなかったけど


「そんなこと言っていない」
まだ視線は俺ではない
これはスコールなりのペースなのだとわかる自分もどうなんだとか、
余計な思考が次々に浮かんでくる

ザアァアアっと風が吹いた。
前髪が揺れてようやく視線が絡み合った。


「俺がいた世界では、代償があるんだ」
「代償?」
スコールは俺でもわかりやすいように言葉を選んでくれているようで、
会話はなかなか進まなかった。

「記憶がなくなるんだ、簡単に言えば」
「え」
「力をかりるための支払いなんだ。実際子供の頃の記憶を忘れていた。」
考えたこともなかったんだけどな、子供の時なんて、と付け加えられた。


「俺は気にせず召喚もするし、魔法も使う。戦うために」
珍しくいつもより多くしゃべるスコールをただただ見つめていた
そんな戦うために自分を犠牲にしなきゃ世界もあるのか、とか
失う恐怖はないのかとか色々な考えが一気に駆け巡る

「でも失う恐怖もあるんだ。忘れたくないんだ・・・」

その言葉の意味を考えた
バッツの瞳が揺れた


「スコール」

自分よりも3つ下の10代である彼はひどく大人びいている
その恐怖を滅多に表には出さず、しまいこんでおくことはどれだけつらいことなんだろうか
バッツは冷たくなったスコールの手を握り締めた。

「大丈夫、忘れないから」
「・・・・・」
「もし忘れたらスコールのところまで風に乗って飛んで行くって」
な?と笑いかけたら
滅多に見えない優しそうな表情が見えた。

記憶から消えたりなんかしないよ
また風が吹いた
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