雪解
気づかなかった

星空が一面を覆っていた
流れ星がいくつも落ちて、まるで本の中のような風景だった


『スコールは優しいから』

バッツの言葉が頭から離れくなった
交代で見張りをする約束をしていた
スコールは自分から夜間の見張りを引き受けた
あの言葉のせいで眠れなくなったからだった

会って間もない奴に何がわかるんだ
・・・いや、間もなくはない、か・・・
生温かい風が通り抜けた
スコールは暑そうに前髪をかきわけた

優しい、という言葉に抵抗があった
自分は最低限の接し方しかしておらず
その態度はとても優しいと形容する行為には当たらなかった
それが余計にスコールを悩ませる結果となった

『優しい』のはバッツだ
俺は優しくない・・・あいつはいつも余計なほどこっちを気にかけるし
他の仲間にだって、同じように接している

『スコールは優しいから』

あの言葉が理解できない
ふわっとまた生温かい風が吹いた
スコールはついに顔を下にうつむけてしまった


・・・暗いな、
ふと、思考をやめた
考えても考えてもバッツの顔しか思い浮かばなかった
いつも笑っていて、楽しそうだな
スコールはそんな結論を出して、空を見上げた

「スコール、交代だ」
「あ、あぁ」

ずっと頭で思い浮かべていた顔が、いざ目の前に来ると驚く
実物のバッツのが、きっとずっと、自分が気づいていないぐらい優しいのだろう・・・

「あの、そんな見られると恥ずかしいんだけど・・・」
「あ、す、すまない」
最近どうもうまくしゃべれない
もとから自分の気持ちを言葉にするのはあんまり得意ではない
しかし、それにしたってバッツの前では、

バッツの前では?
「スコール?どこか具合でも悪いのか?」
「な・・・何でもない!」
「怒るなよ。まあ、いいや。早く休めよ」
「あぁ」

余計眠れなくなった
今までずっと気づかない感情に気づいてしまった
スコールは自分自身に驚いて、動揺して、不安になった
変に冷や汗をかいてしまい、眠るという行為が難しくなってしまった

バッツはこの感情に気づいているのだろうか
もし、気づいているとしたら、それでもいつも通りに接してくれているのなら
やっぱり優しいのはバッツの方なのだ
「スコール?眠れないのか?」
「!!」

耳元で囁かれて心臓が飛び出る勢いだった
薄暗い中でバッツは心配そうに、覗き込んでいた
スコールはあまりにも驚いてしどろもどろしながら答えた

「バッツは誰にだって優しすぎるんだ」
そう、俺だけのベクトルではない
スコールの視線はどこかに消え去りそうになっていた

とうのバッツは、ははっと小さく笑って、嬉しそうに

「スコールにだけ、特別優しくしてたんだけど」
「え?」
「いいや、おやすみ」

そう言ったバッツが何よりも優しかった

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