apple pie


「・・・もう会わないんじゃなかったのか」


とても小さな声で、しかしサイファーにはとても重い声が体中に響いて行った
真っ暗な部屋に溶け込むように、悲しそうにスコールが佇んでいた
まだ後ろを振り返る事が出来ない

「・・・悪かった」
「え?」
「悪かった!!」
柄にもなく、スコールよりも小さい声でつぶやいた
後ろ向きのため、その声がスコールに届く訳もなく
結局いつものように叫ぶ結果となった


いつものように気まずい空気が流れた
鈍いサイファーでもそれだけはわかった
手元には元に戻そうとした白い箱、しわがよってしまった赤いリボン、
そして確かにスコールの字で書かれたピンクのメッセージカードが寄せ合うようにあった

「・・・ほんと、悪かった」
それ以外に出る言葉が浮かんでくることもなく
喉元まで出てきては、自ら消し去るように言葉を飲み込んでいっているようだった

サイファーは決意して立ち上がった
スコールは突然立ち上がったサイファーに驚いて、しばらく見つめていた
「・・・ほんと、悪かった。悪かった」
怖くて、という言葉が似合うかわからない
でも自信が急にどこかに消え去ったようで、サイファーはスコールを見ることもなく、部屋を出ようとした

「まだ、まだ捨ててないんだ」

「・・・?」
スコールの精いっぱいの言葉だった
サイファーは驚いてついに向き合う形になった
部屋はまだ暗いままだったので、スコールの表情がはっきり見えた訳ではない
しかしいつもよりも白く見えたのは気のせいだろうか?

「でもまずい・・・かもしれない」
「・・・」
「サイファーが甘いのが好きだなんて、聞いてない」
「・・・」
「・・・リンゴが本当に好きかも、少し怪しい」
「・・・・・・・」

「それでもいいなら」
まるで独白のように、スコールはぽつぽつと、淡々と珍しく言葉数多めに必死に伝えようとしていた
どうやら、まだ勝利の女神は微笑んでくれているようだ

「俺様のプレゼントはどこにありますか?スコール様?」
「普通にそこに入っている」
サイファーの言葉が嬉しかったのか、いつもの「無愛想なスコール」になっていた





「お前とこうなるまでに随分時間がかかった気がするぜ」
「サイファー?」
おいしそうにアップルパイを頬張っていたサイファーに
彼の分のコーヒーまで用意したスコールが珍しく笑顔で言った

「片づけはお前がしてくれるんだろ?」
今までで一番の笑顔だったかもしれない


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