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「おい」

「・・・・・・」
「おい、俺はお前に話かけているんだ」

本に向かってないでこっち向け、と言われて読んでいた雑誌を取り上げられた。
せっかくの休日ぐらい邪魔しないでくれ、と無言の目線を送ったが
サイファーには通用しなかったようだ

―面倒くさい
こいつが部屋に来た時点で一日の予定が全て狂うのだ
少し開けていた窓から風が吹き込んでいた。

「海に行こうぜ」
「は?」
「ほら、海に行くぞ」
バラムだからな!と言われて、そのまま部屋から外へ出た。
平日のガーデン内のせいか、人はほぼ見かけなかった。
そこをサイファーは不機嫌そうなスコールをずるずると連れ出した。


「そう言えばアンタ、今日は訓練場じゃないんだな」
「今日はそんな気分じゃねぇ」
やっぱり海なんだ、海といきいきとしているサイファーを見ていると
なんだかいつもよりは少し新鮮に感じられて、こういうのも悪くないと思ってしまう

最近よく訓練につき合わされた。
体がなまるのは困るのでそれだけは付き合っていた
しかし、今思うと海は失敗だ、と後悔した。



眩しいくらいに光が反射して海はとても青かった。
そう言えばサイファーはいつもの白いコートを着ていなかった。

「・・・・・・・・・暑い」
「他に言うことないのか」
「帰りたい」
「てめ・・・」
「じゃあ何て言って欲しいんだ」

ザァァァン、と波音が響いた
少し下ろしてあったサイファーの前髪が揺れていた
風が心地よい


「せっかくのデートにもっと気が利いたことを言えねぇのか」
サイファーはずっと海を見ていて、こちらからは横顔しか見えなかった。
その顔が愛しいと思ってしまったのは気のせいだろうか?

「・・・・・・デートだったのか」
「あぁンッ?!」
「・・・・・・・(相変らず強引なんだな)」
「おい、心ん中でしゃべんねーで、声だせ、声を!」
どうも呟いたのが聞こえたのだろうか
不満そうな顔をしたサイファーがこちらを見つめていた。

「まさか、俺がお前を強制連行したって思ってたのか」
「・・・・・・・・」
「き・い・て・る・か?」

ぎゅーっと頬をつねられて、顔を歪めた。
サイファーによくこれをやるが、こんなに痛いものだったのだろうか
「ちッ、まあ、どうでもいいけどよぉ」
「そうか」

「ああ、お前と海に行きたかっただけだから」


ああ、何でこの男はさり気なくこういうことをストレートに言えるのだろうか
恥ずかしくなってひたすら下に視線を落としていた。

空が青い

まだ、素直に伝えられない

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