「さよなら」の瞬間まで
※学パロ58です






「さよなら」を言わなければならない
スコールはいつも毎日訪れるこの瞬間を何よりも嫌った
ただ「さよなら」という言葉を口にすればいいのに、どれだけその行為に時間をかけることか

その時間さえ無ければこんなに毎日のように悩むことはないだろう
一度だけ、一緒に帰るのを拒んだことがあった
完全に意図がある断り方をした、あの時の自分はどうだっただろうか?
チャリン、カバンにつけていたキーホルダーの音がした。
そこでスコールは完全に現実に引き戻されることになる。バッツが近づけばいやでもわかるからだ、あの音で



「スコール!こんなところにいたのか!」
「・・・あぁ」
パタン、と本を閉じてスコールはバッツへと向き合った
大抵入口からも外からも見えない死角となっている席に座っているのにバッツは慣れたように見つけ出してくる
「一緒に帰ろう。あ、まだいる?それなら待ってるけど」
「いや・・・もう帰る」
どうやらバッツの中に一緒に帰らないという選択肢はないらしい
その言葉にさらにスコールは悩んだ
またあの「憂鬱な時間」が訪れようとしているからだ

校門を抜ければオレンジ色の世界が広がっていた
「最近寒いよなー」
「・・・」
「あ、スコールはマフラーしてるからあったかいのか。おれも買おうかな〜」
「・・・」
バッツはブレザーの中にセーターを着ているだけだった
しかし最近急激に冷え込んだのでその温度差についていけていないのかもしれない
気づけば空は暗くなってきていた。

考える間に例の時間が刻々と訪れていた
スコールが夏前に気づいたことなのだが、バッツはわざわざ逆方向なのにスコールと同じ電車に乗り込むのだ
降りる駅になるとバッツは「じゃあ、また明日」と言って笑顔で手を振ってくる
それに、あの笑顔にどう「さよなら」を言えばいいのかわからなくなるのだ

降りる駅のアナウンスが入った
憂鬱な時間へのカウントダウンが始まった
もしもバッツが一緒に電車まで乗らなければ、この迫りくる時間に心拍数を上げることはないだろう
あの言葉が喉まで出てきて突っかかるのだ

「・・・バッツ」
「ん?」
珍しく先に言葉が出た
だがタイミング悪く扉が開いてしまった
スコールは言葉を外に出そうと考えたが、それをすぐに取りやめた
「いや、なんでもないんだ」
「でも「じゃあ」
バッツに喋らせる前に言葉と共に体は電車の外へと飛び降りた
これで「さよなら」の時間は強制終了させることができる。それと同時に発車ベルが鳴り響いた。
スコールは振り返ることなく改札へと歩き始めた。そういえば今日はバッツのあの、いつもの言葉を見ることばなかった
歩き始めた時にはすでに電車は駅を出てしまった。あの時間は終わりを告げたのだ


「スコール!」
「・・・?!」
「また明日!」
あの笑顔が目の前で飛び出してきて、スコールは完全に行動を停止した
バッツはわざわざ電車を降りてこれを言いに来たのか?と混乱させた
そしてバッツは言い終わるとまた駅のホームへと戻ろうとしていた
スコールは茫然とそれを見ていたが、それに気づいてひき戻っていた。

「スコール?」


今言わないといけない
あの言葉を


「     」

「さよなら」を言わなければいけない
彼の気持ちにいい加減答えられない自分に
気づけば空は星空だった

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