手を伸ばして
※学パロ58です
視線を向けてのつづきのようなつづきでないような






「・・・バッツ?」
スコールは図書館でただただ茫然としていた
この場所は死角になっているため、誰も来ないスコールのお気に入りの場所だった
あまりにも驚いて手元からノートたちが滑り落ちていった

「何か、用か?」
「え、あ、いや・・・用ってほどじゃあ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
見つめあう沈黙が続いた
あと5分で昼休みは終わりを告げる

スコールは気まずくなって視線を下へ上へとそらした
「・・・そういうことか」
「スコール?」
スコールの視界には、こちらをずっと見ているジタンがいた
あちらもスコールの視線に気づいたのか、すぐにわざとらしく隠れてしまった

「あそこから見ていたのは、からかうためか」
「え、」
「用がないなら来ないでくれ」

動揺していた、確実に
視線に気づかないわけがなかった
気づいてしまってからというもの身動きがとれず、かと言って見ることもできなかった
最近は陽があたるので、隣の席に移動するかいつも悩んでいた

「スコール!」
怖くてバッツの方を向くことができなかった
落ちてしまったノートたちをひろいあげて逃げるように図書館を出た
あのあたたかい陽のあたる空間から一瞬にして凍りつくような廊下へと世界がかわった
明日からあの場所には行かないだろう


その明日は雨だった

スコールはいかないと決心したはずなのに気づけばそこにいた
窓の外は暗い雲とたくさんの雨で埋め尽くされていた
どうも気が散って何もできないまま昼休みになっていた
いつもの空腹もなくなってしまった
スコールはただそこに座っていた
ノートに書かれた数式たちはこちらを見つめているだけで、スコールもそれを見つめ返すだけであった

「スコール」
また同じ時間だった
今度はスコールは振り向かなかった
まるで全身が鉛のように重くなっていった
バッツの息づかいからか、どうやら昨日と同じで走ってきたようだった

「ごめん。からかうとかそんなんじゃなかったんだ。」
何故だろう、胸が苦しかった
「ただちょっと伝えたいことがあって・・・でももういいんだ」
バッツのトーンは落ちるばかりだった
「じゃあ。ごめんな、勉強の邪魔して」
スコールは怖くて後ろを振り返ることができなかった
しかし気づいたときには手を伸ばしてバッツをひきとめていた

「バッツ」
今度はバッツが驚く番だった
スコールはようやくバッツを見つめ返した



手を伸ばして掴んだのは、少し濡れた君の袖だった

<< back <